• 10月 21, 2026

なぜ胚盤胞にならないの?受精後に胚の発育が止まる原因を解説

こんにちは。秋葉原ART Clinic 院長の湯です。

「受精したのに、その後の発育が途中で止まってしまい、胚盤胞まで育たなかった」

体外受精や顕微授精を受けた方の中には、このような経験をされる方が少なくありません。

では、受精した胚は、なぜ胚盤胞にならないのでしょうか?今回は、その主な要因について説明します。

胚盤胞になるまでには、いくつもの段階があります

体外受精・顕微授精では、受精した卵(受精卵)は、その後、細胞分裂を繰り返しながら発育していきます。

大まかには、「受精卵 → 2細胞期 → 4細胞期 → 8細胞期 → 桑実胚 → 胚盤胞」 という段階を経ていきます。

胚の発育段階

体外受精では、かつて分割胚を移植する方法が広く行われていました。その後、体外培養技術の進歩に伴い、現在では胚盤胞まで培養してから移植する方法も広く行われています。

なぜ胚盤胞にならないのでしょうか?

採卵して、受精して、順調に分割しているように見えても、すべての胚が胚盤胞まで発育するわけではありません。

胚盤胞まで発育できない理由は、一つではありません。

現在の研究からは、主に以下のような要因が関係すると考えられています。

  • 胚の染色体数の異常
  • 卵子側の要因(加齢による影響など)
  • 精子側の要因
  • 培養環境などの影響

そして重要なのは、実際の患者さん一人ひとりについて、「これが原因です」と明確に特定できないことも多い、ということです。

胚の染色体数の異常

胚の染色体数の異常には、卵子や精子がつくられる過程で生じるものと、受精後の細胞分裂の過程で生じるものがあります。

こうした染色体数の異常は胚の発育や着床と深く関係しており、発育が途中で停止した胚では染色体数の異常が高い頻度で認められることが報告されています。

特に女性の加齢に伴って増加する胚の染色体異常には、卵子の減数分裂における染色体の分離・分配異常が大きく関与しています。一方、受精後の細胞分裂の過程で生じる染色体分配異常も、胚の染色体構成や発育に影響することがあります。

そのため、胚盤胞まで発育できなかった場合には、胚が本来もっていた染色体数の異常や、発育の過程で生じた染色体分配異常などが発育停止に関与している可能性があります。

卵子側の要因(加齢による影響など)

受精後の初期胚は、卵子にあらかじめ蓄えられたエネルギーや成分(RNA・タンパク質)を利用して成長します。そのため、卵子そのものが持つ発育の力が、胚盤胞まで届くかに大きく影響します。

特に女性の年齢が上がるにつれて、卵子内部には以下のような変化が生じやすくなります。

・エネルギー(ATP)産生能の低下(ミトコンドリアの機能低下)
・発育を支える成分(RNA・タンパク質)の減少や変化
・染色体を正しく分配する仕組み(紡錘体)の乱れや酸化ストレスの蓄積

こうした卵子の質や加齢に伴う変化が、胚盤胞への到達率に関係しています。

精子側の要因

胚の発育には、精子から受け継いだ遺伝情報も関係します。

精液検査では、精液量、精子濃度、運動率、形態などを確認します。

これらの標準的な検査に加えて、精子のDNAが傷ついている割合を調べる「精子DNA断片化(DFI)検査」という検査があります。精子DNA断片化率が高い場合は、受精後の胚の発育や胚盤胞への到達、妊娠の継続に影響する可能性が報告されています。

当院では、精子DNA断片化検査を実施しています。また当院では、膜構造を用いた生理学的精子選択術(Zymot法)という先進医療を導入しています。これは、膜を通過できる運動性の良い精子を選別する方法で、DNA断片化の少ない精子を回収することを目的として用いられています。

当院で実施している先進医療

培養環境

胚の発育には、培養中の温度、pH、酸素濃度、培養液、インキュベーターなど、さまざまな環境が関係します。

胚はごくわずかな環境変化の影響も受けやすいため、適切な培養環境を維持することが重要です。

当院では、胚の培養環境を適切に管理するとともに、2020年よりタイムラプス胚培養を導入しています。タイムラプスでは、胚をインキュベーター(培養器)から外に取り出すことなく、発育の様子を継続的に観察できます。安定した環境を維持したまま観察を行えるため、胚へのストレスを軽減し、良好胚の発育促進が期待されます。また、細胞分裂のタイミングや形態の変化などを連続的に確認できるため、胚の発育過程をより精密に評価する方法としても活用されています。

胚盤胞になる確率は?

受精した胚がすべて胚盤胞まで発育するわけではありません。一般的には、正常受精した胚のうち、胚盤胞まで到達するのはおおよそ半数前後とされています。

胚盤胞まで発育する割合は、加齢に伴って低減し、また、卵子や精子の状態、受精後の胚の発育状況などによって個人差があります。そのため、「採卵○個なら胚盤胞○個」というように、一律の基準で考えることはできません。

1回の採卵で胚盤胞が得られないことも、治療では起こり得る経過の一つです。

胚盤胞にならなかった場合、今後どうするか

胚盤胞が得られなかった場合は、採卵から受精、胚の分割、発育停止までの経過を振り返ります。こうした経過を確認することで、次の治療で検討できる点が見えてくることがあります。

一方で、胚盤胞まで発育できなかった原因が、その周期に偶発的に生じた胚の染色体異常によるものと考えられる場合も多くあります。

そのため、毎回必ず治療方法を大きく変えるのではなく、それまでの経過を一つひとつ確認し、次の周期で見直せる点がないかを検討していきます。

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