培養室について
培養室は、培養士が皆様からお預かりした精子や卵を扱う不妊治療施設において大事な場所になります。
当院では主に精子検査・精製処理やデータ管理を行う培養前室と、検卵から受精・培養・凍結融解・移植まで行うクリーンルームに分かれています。
普段皆様からは見えないところにありますが、最新の設備をもって十分な技術をもった培養士が一つ一つの作業を丁寧に行い、より多くの方が妊娠・卒業されるように努力しております
環境
照明は有害な紫外線を出さないLEDとなっており、室内を陽圧にし、フィルターを使うことで空気中のホコリをなるべく減らし、より清潔な環境下で作業を行っています。また、入室制限、手洗いの徹底、毎日の掃除などクリーン度を保つよう心掛けています。
当院の培養室のこだわり
インキュベーター
受精卵を体外で育てる場合にはいかに体内の環境を再現し、ストレスとなる要因を取り除くかが重要となってきます。自然妊娠の場合受精卵は卵管を通りながら細胞分裂を繰り返し成長していきますが、体外ではインキュベーターと呼ばれる環境を一定に保つことができる機械に入れて培養を続けていきます。
インキュベーター内に置くことによって低酸素濃度下で温度とpHの維持を行い、体内に近い環境で培養することが可能となります。
毎日培養士がインキュベーターに異常がないかチェックを行い、管理を徹底しています。
当院では2種類のインキュベーターを使用しています。
加湿型
保温効率が高く、温度安定性が良いインキュベーターです。不足の停電が発生しても、すぐには温度とガス濃度が変わりません。
当院には非常用電源も設置されていますが、非常時にはこのインキュベーターに電源供給を一元化することで、温度下降・ガス濃度変動のリスクを最小限にすることができます。
無加湿型
チャンバーと呼ばれる小さな部屋が複数あり、チャンバー内を患者様毎に個別管理することで胚の取り違えを防ぎます。
また、チャンバーは省スペースに設計されているので、インキュベーターのドア開閉による庫内の環境変化を軽減して、安定した培養環境を維持できます。
最新型タイムラプスインキュベーター
最新型タイムラプスインキュベーターEmbryo Scope Flexを導入しました。
当院では、全ての患者様の卵をタイムラプスインキュベーターで培養しています。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
IMSI(高倍率顕微鏡下顕微授精)
顕微授精を行うために、当院では通常よりも高倍率の顕微鏡を用いて顕微授精を行っています。
そうすることで、良い精子を選ぶ際に奇形精子をさけることができ、さらに通常倍率では判別できない頭部の空砲や陥没をさけることができます。
PIEZO-ICSI
PIEZOシステムとは、元々は人の卵よりも繊細で弱い、マウスの卵を受精させるために開発された顕微授精をするための機械です。微細な振動を用いることで、透明帯と卵細胞膜に穴を開けます。従来の顕微授精の方法よりも、より卵に負担をかけずに受精させることができます。
紡錘体観察ICSI(Spindle Localization ICSI)
紡錘体とは核分裂に大切な役割を果たす細胞小器官です。顕微授精時には卵に直接針をさして精子を注入するため、紡錘体を傷つける可能性があります。紡錘体は第一極体の近くに存在することが多いので、極体からなるべく離れた位置からさすのが従来の方法でした。
しかし極体から離れた位置に紡錘体が存在することもあり、そのような卵に通常の顕微授精を施行すると紡錘体を傷つけてしまう恐れがあります。
当院では紡錘体が観察できる特殊な顕微鏡を導入しており、紡錘体を可視化することでこのリスクを無くすことが出来ます。
また、卵成熟の進行にともなって形成される紡錘体の形態と受精能には相関があるとされています。
当院では第一極体放出確認のみではなく、さらに紡錘体観察を行って真の卵成熟度を確認することで、顕微授精を行うタイミングの指標として応用し受精率の向上に役立てています。
当院の精子調整方法について
密度勾配遠心法
人工授精や体外受精を行う際は、精液をそのまま使用するのではなくその中から良好な精子を抽出する工程が必要になります。
その方法として当院では密度勾配遠心法という方法を採用しています。
精子は成熟精子、死滅精子などそれぞれの精子の密度の差があります。密度勾配遠心法では、この差を利用し特別な比重の分離剤に精液を重層し遠心分離にかけることで良好精子を回収することができます。
Zymōt(ザイモート)スパームセパレーター
密度勾配遠心法は運動精子を高濃度に回収することができますが、遠心処理によって精子が物理的に損傷を受けたり、活性酸素の酸化ストレスを受けることで見た目では分からない精子DNA断片化*が起きてしまうリスクが懸念されてきました。
Zymōtスパームセパレーターを用いた精子回収は特殊な構造をもつ容器に精液と培養液を注入し、メンブレン(膜)というフィルターを通過できる運動精子を集める方法です。遠心分離を行わないので精子に損傷を与える要因を少なくすることができ、良好精子を従来より簡便な操作で効率的に回収できることが期待されており、従来法に比べ胚盤胞達成率、妊娠率が向上したと報告されています。
*精子DNA断片化率が上がると胚発生に負の影響を与え胚盤胞発生率の低下や流産率の上昇に関連すると考えられています。
ザイモートの当院の適応
- なかなか胚盤胞まで育たない方、反復妊娠不成功の方にお勧めさせていただいています。
- 回収精子量が少なくふりかけ法での受精率低下が懸念される為、基本的には顕微授精の方への適応とさせていただきます。
Zymōtでの精子調整を希望される方は採卵前までの診察でDrにお伝えください。※追加料金あり
非常用バックアップ電源
2011年東日本大震災は一つの大きなきっかけとなりましたが、多くの体外受精施設の培養室が日頃から地震やその他有事の際に対する備えをしておくことの重要性を認識しています。当院でも万が一に備えて、卵を培養するインキュベーターや、凍結した卵と精子を保存しておくためのタンクを守るために、培養室を設計する段階から対策をとっております。
非常用バックアップ電源もその一つであり、インキュベーターや培養室における作業時の電源確保手段として用意しています。
また検体を保存するタンク、インキュベーターなどに対して固定・補強を行って大きな揺れでも転倒しないよう安全対策をしています。
取り違え防止のための安心・安全対策
検査、人工授精、採卵移植の際には患者様自身にも間違いのないようご確認いただいておりますが、培養室内でも徹底したダブルチェックに加えバーコード認証システムにより検体を識別する事でいっそう安全に操作を行っています。培養室という皆様から目に見えない空間でも安心して精子・卵をお預けいただけるよう努めております。