皆さんこんにちは。培養士のOです。
今日は禁欲期間についてお話しさせていただきます。
患者様との会話の中で、精液検査のデータをよくするにはどうすればよいかと相談されることがあります。
残念ながら現時点では画期的な改善方法はありませんが、禁欲期間を調整することで良好精子を得る確率を上げることができるかもしれません。
以下の表は禁欲期間と精子の数や運動性、形態などを調べた2009年から2016年の文献をまとめたものです。
(Brent M. Hanson et al .,J Assist Reprod Genet 2018 35:213-220より引用)
表中の+と-は、禁欲期間が長くなったときの各パラメーターの増減を表しています。
この表によると禁欲期間が長くなると液量(volume)や総精子数(count)は増加し、精子運動率 (peak motility)に関しては禁欲期間が5日以内で最も高かったとの報告が多数みられます。また精子の形態(peak morphology)については半数以上の報告で禁欲期間との関連はないとされています。
今回特に皆さんにお知らせしたいのは赤丸の部分です。まずはDNAの断片化(DNA fragmentation)についてですが、8つのうち4つの文献で禁欲期間が長くなるとDNAの断片化が増加すると報告されています。活性酸素による酸化ストレスなどでDNAが傷ついてしまうと、胚の成長が悪くなったり流産率が上昇すると考えられています。
次に数は少ないですが、人工授精や体外受精を行った結果(peak ART outcomes)では禁欲期間が人工授精では3日以内、体外受精では1日以内で最もよい結果が得られたと報告されています。
表でまとめられた文献は用いた手法や対象がそれぞれ異なっている部分もあるため、どれくらいの期間が適しているのかはっきりと断定することはできません。しかし液量や精子数が増えるのは古い精子が蓄積するためと考えられ、DNA損傷の可能性を考慮すると期間を長くとるのは避けた方が良さそうです。
また表の中には30分から1日のように短い禁欲期間が良いとするものもありますが、人によって精液検査の結果にばらつきもあるため適していない方もいらっしゃると思います。
当院では、禁欲期間は2-4日程度をおすすめしています。採卵や人工授精の周期に入りましたら、少し気にしてみてくださいね。