目次
当院のタイミング指導と人工授精について
- 排卵誘発剤に頼らず、自然周期のタイミング指導と人工授精を基本としています。月経周期が長めの方、月経不順の方、無月経の方などには、必要に応じて排卵誘発剤を使用し、注射を併用することもあります。
- 超音波と血中ホルモン値測定を組み合わせることにより、可能な限り正確に排卵の時期を特定しています。
- 個々の患者様の年齢、卵巣機能、不妊期間、不妊原因、治療歴などをしっかり把握し、ステップアップのタイミングを見極め、その方の状況に合わせて治療方針をご提案いたします。
妊娠・不妊に関する基礎知識
1. 妊娠成立の流れ
①精子の進行
②排卵
③受精
④受精卵の発育
⑤着床
まず腟内に射精された精子が卵管に向かって進行し、卵巣から排卵された卵子と卵管内で受精し、受精卵が卵管内で成長しながら子宮腔にたどり着き、子宮内膜に着床することで妊娠が成立します。排卵、受精、着床は妊娠成立の主な要件となります。このいずれかの段階に障害があると妊娠の成立に支障を来します。
2. 不妊の定義と不妊の頻度
不妊とは、妊娠を望む男女が避妊をすることはなく、性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と考えられています。しかし明らかな不妊原因が存在する時には、不妊期間の長短に関わらず、不妊症と診断して差し支えありません。不妊を心配している夫婦の割合は年々増加の傾向にあり、カップルの5組に1組が不妊に悩む時代となっています。
3. 年齢と妊孕性
妊娠を希望している健常な夫婦であれば、3か月以内で約50% 、6か月以内で約70%、1年以内で90%近く妊娠に至りますが、女性の加齢とともに妊娠率が低下することが報告されています。35歳、特に37歳前後から妊孕性が急激に低下します。
日本生殖医学会のホームページより引用
妊娠率低下の原因:年齢の上昇に伴う①卵子数の減少、②質の低下といった加齢により卵子が受ける影響が主要因と考えられています。また、年齢に伴って子宮筋腫、卵巣嚢腫など婦人科疾患の増加も原因として指摘されています。
4. 不妊の原因
不妊の原因は明らかな男性因子が24%、女性因子が41%、男性・女性ともに原因がある割合は24%とのWHOの調査結果が報告されています。不妊症の原因はおおよそ男女半々ということになります。
女性側の原因:
① 排卵因子:約10-15%、多嚢胞性卵巣症候群、体重の急激な減少やストレスなどによる排卵障害が原因となります。
② 卵管因子:約30%、卵管の通過性障害や卵管周囲の癒着、クラミジア感染や子宮内膜症などが原因としてあげられます。
③ 子宮因子:子宮の形態異常、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ等が含まれます。
④ 免疫因子:精子に対する自己抗体があると、卵子と精子の結合などに障害を与えます。
⑤ 子宮内膜症:不妊症の約25-35%に子宮内膜症が合併し、子宮内膜症の30-50%に不妊が認められると言われています。原因はまだ不明な点が多いですが、骨盤内癒着の他に、種々の細胞因子による卵子や受精卵の質への影響も指摘されています。
⑥ 原因不明:一般的な検査で原因が明らかではない場合も少なくありません。報告によって大きな差がありますが、女性側の約半分が原因不明との指摘もあります。加齢による卵巣予備能と卵子の質の低下が最も大きな原因と考えられます。
男性側の原因:
男性側の原因のほとんどは造精機能障害となります。
① 造精機能障害:83%
そのうち原因不明56.1%、精索静脈瘤35.9%、その他8.0%
② 精路通過障害:13.7%
③ 射精障害、勃起障害:3.3%
原因不明の特発性造精機能障害が約6割を占めており、後天的な造精機能障害の主な原因は精索静脈瘤となります。
不妊治療の方法
不妊治療は1.タイミング指導、2.人工授精、3.体外受精の三つのステップがあります。
タイミング指導と人工授精は一般不妊治療、体外受精は高度生殖医療とも呼ばれています。
- タイミング指導:排卵の時期を特定し、排卵のタイミングに合わせて、1-2回の性交渉を指導することによって妊娠率を上げる方法です。
適応:主に排卵障害、または性交渉の回数が少なかった、明らかに性交渉のタイミングが合っていなかったなどの場合に行います。 - 人工授精:排卵の時期を特定し、排卵のタイミングに合わせて、精製・濃縮した良好精子を子宮の奥まで注入することによって妊娠率を上げる方法です。
適応:
①精子(精液)の量が少ない、質的異常
②性交障害、腟内射精障害
③ヒューナーテスト不良
④原因不明の不妊など
- 体外受精:体外に取り出した卵子を精子と受精させて培養し、その後受精・成長した胚を子宮内腔へ戻す(移植)方法です。タイミング指導と人工授精の妊娠率は1周期あたり10%程度に留まりますが、体外授精では、移植あたりに約30-40%の妊娠率が期待できます。
適応:
①卵管性不妊:両側卵管閉塞、あるいは切除後など
②乏精子症、精子無力症:精子の量が少ない、運動率が低い
③原因不明の不妊など
不妊治療の進め方
① 不妊検査
まずスクリーニング検査をして不妊原因を検索します。
男女双方検査するのが基本です。検査項目はこちらをご参照ください。
② 治療方針の決定
タイミング指導から人工授精、人工授精から体外受精へステップアップしていくのが一般的によく行われています。状況によって、最初から人工授精、あるいは体外受精から進めていく場合もあります。
- 35歳、特に37歳以上の方
- 卵巣予備機能(AMH)低下の方
- 卵巣機能不全の兆候が見られた方(例えば基礎レベルのFSH値が高い)
- 子宮内膜症合併の方
- 卵巣の手術の既往がある方など、
早めのステップアップを考慮することが望ましいと思われます。
漫然とタイミング指導から人工授精、人工授精から体外受精へやっていくと、大事な治療のタイミングを逃す恐れもありますので、しっかり治療方針を見極めることが大事です。